日の丸を背負って ― 「Japan Trip」の背景 

「日本のケースは取り上げたくてもできない。なぜなら、英語の情報があまりに少ないからだ。」

先進国の医療システムについて学ぶ授業での、HSPHを代表するある有名教授のコメントに大きなショックを受けた。

我が国が、エレクトロニクス、自動車、ハイテク、建築、アニメなどの各分野においてグローバルで圧倒的な存在感を誇るのに対して、医療や公衆衛生の現状については必ずしも良く知られていない。教室でも、日本の長寿、国民皆保険、喫煙率の高さなどがしばしば話題に上がるものの、医療やパブリックヘルスの全般的な情報は少ないばかりか、残念ながら正しく伝わっていないことも多い。

異国の地にいると、何かと日の丸を背負うことが多くなる。

教授陣や学生・研究者だけでも2000人近い人員を擁するHSPHの中で、日本人は極少数を占めるに過ぎない言わば「マイノリティー」である。だからこそ、授業でも日本に関する話題に触れられると、必ずといって良いほど日本人学生が指名され自国について語ることを求められる。ミクロ的には様々な課題や改善点が山積している日本の保険・医療システムも、世界の多くの国からは「一体日本のどこに問題があるのか分からない(あるアメリカ人学生)」といった羨望の眼差しを向けられることが多い。少子高齢化というあまりに大きな課題が目の前ある一方、少なくともこれまで、そして現時点では、マクロ的に見て極めて完成度が高くバランスの取れたシステムだということが国際比較を通じて浮かび上がってくる。

我々も世界の一員として、自国の経験とそのレッスンを他国と共有し、他国の経験からも真摯に学び、目の前に立ちはだかる数々の難題に立ち向かっていかなくてはならない。そして転換期の我が国において、より良い日本を構築していくのはまさに我々の世代の使命である。

 

Japan Tripを企画・運営するのは2005年に新設された大学公認組織であるHSPH Student Club of Japanである。プロジェクトの準備には、修士・博士課程の日本人在校生や武見プログラムフェローはもちろん、アメリカ人学生も参加している。医師、研究者、政府官僚、企業出身者など日本人在校生のバックグラウンドは多様だ。これら在校生は企画・運営の中心的な役割を演じているばかりか、セミナーでのファシリテーターや講師も務めている。

厳しい学業の合間を縫って行われる活動を支えるのは、「日本を良くしたい」「日本を学び、世界から学ぶ」という日本人学生らの強い想いだ。活動は全てボランティア。多くの日本人学生は高い学費と生活費をまかなうために自分の貯金や奨学金を元手に留学、ぎりぎりまで生活を切り詰めて勉強している。自分たちで少しずつ出し合った僅かな運営資金。日本に関する論文集や資料などは全て手作りだ。大量の英文資料作成を手伝うアメリカ人学生たちには、日本人学生が自宅で手料理を振舞いその労に報いている。

そんな姿が参加者を惹き付けたのか、1人当たり約25万円という費用にも関わらずアメリカ人を中心に40名もの学生がツアーに参加する。彼らの多くも学生ローンや奨学金で学費を賄う「苦学生」だ。それでも日本に学びたい、彼らの目的意識は驚くほど高い。

 

このささやかな研修ツアーを通じ、1人でも多くの世界のリーダー候補たちが我が国に対する理解を深め、時には励まし、時には心からの苦言を呈してくれる真の日本のサポーターになってくれることを願っている。

 

小野崎 耕平(Japan Trip 実行委員長)